今回は亜鉛について取り上げてみたいと思います。私は日頃調剤薬局で働いていますが最近の処方で亜鉛欠乏症に使用される薬剤の使用が増えています。私の薬局では自閉症のお子さんに処方されるケースが多いですが、その他にもアトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患から潰瘍性大腸炎の患者さんにも処方されるケースがあります。その理由を今回考えてみたいと思います。
亜鉛の体内での役割
私達の体に亜鉛がどの様に必要なのか?亜鉛と言えば、味覚異常や口内炎の改善に効果的であることが古くから言われています。亜鉛は体内では作ることができない必須微量ミネラルで、歯、骨、肝臓、腎臓、筋肉に多く含まれます。
味覚を正常に保つ働きがあります。私達は舌にある味蕾という受容器官で味を感じ取っているのですが、味蕾の中の味細胞は短期間で細胞を次々と作っては壊しを繰り返しているので材料となる亜鉛を常に必要としています。
免疫力を向上させる働きがあります。欧米では今や亜鉛は味覚異常ではなくて免疫力を向上させるという認識の方が広まっているようです。亜鉛の作用で粘膜を保護するビタミンAを体の中にとどめる効果があり、粘膜を正常化させます。また細菌などを攻撃する白血球にも亜鉛が含まれています。
成長、発育にも必要。亜鉛を摂取することで体内の新陳代謝がより活性化されるので新陳代謝が活発になる成長期に必要になります。
髪や肌にも重要。皮膚や髪というと細胞分裂が盛んで新陳代謝が活発な部分ですので髪や皮膚の健康を保つためには亜鉛が必要です。
亜鉛とアレルギー性疾患
アトピー性皮膚炎や喘息などの疾患がある患者さんは血液検査で亜鉛が不足されている傾向があるようです。上で書いたように亜鉛は皮膚の新陳代謝や免疫に重要な働きをしています。皮膚の表面を覆っている細胞も気管支を覆っている細胞も正常であれば細胞同士が密にくっついて外部からの異物の進入をさせないようにバリアーを張っていますがそれが上手く細胞が作られていなかったりすると異物は簡単に細胞間を通り抜けて内部に侵入してきます。その侵入を感知して白血球などの免疫細胞が攻撃をするので、正常な細胞もますます痛んでアレルギーが誘発されます。バリアー機能を保つということはとても大切なんです。
亜鉛とクローン病、潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎に亜鉛が関与しているということが最近の研究で分かってきました。亜鉛欠乏により炎症を起こす免疫系等の一部が活性化されるとのことです。まだ明確なことは分かっていないようですが亜鉛が治療に良い作用をする可能性があると言われています。
亜鉛と自閉症
最近職場で働いていると自閉症治療の薬を患者さんにお渡しするケースが増えています。自閉症という病名が出てきたのはここ20年前からかと思います。薬をお渡しする時にお子様とお話することもあるのですが、投薬時ではどうしてこの子が自閉症なのか?と疑問に思うことも多いです。もちろん、待合で騒がれているお子さんもいてお母さんはとても大変そうな方もいます。程度の差こそあれ社会が余りにも自閉症の子供だからというある種の偏見めいた風潮になることに違和感を覚えます。そんな病名がつかない時代は騒がしい子、落ち着きがない子、と言われていたのにです。亜鉛が自閉症に関係していると言うことはごく最近の研究で言われているようです。ただはっきりした事はまだ分かっていないようですが血液検査をみると自閉症で掛っているお子さんとそうでないお子さんを比べたら亜鉛が不足しているお子さんが多かったとのことです。今後の研究を待ちたいと思います。
食べ物から亜鉛を摂取する
ここまで書いてきましたが、亜鉛が私達の生活にとても重要な物であることは分かりました。では私達は生活の中でどの様に亜鉛を摂取していけば良いでしょうか?亜鉛が多い食べ物というと牡蛎が有名ですね。確かに他の食材と比べても牡蛎のグラムあたりに含まれる亜鉛の量は圧倒的に多いです。ですが、牡蛎を現実的に毎日食べると言うことはなかなか難しいのではないでしょうか?果たして私達は毎日食事の中でどれぐらい牡蛎を食べますか?私に限っては年に10回もあるかないかです。では、サプリメントはどうか?今ドラックストアなどには多くのサプリメントが売られていてその中に亜鉛のサプリメントもあります。売られている亜鉛サプリの多くは亜鉛酵母から製造されているようで、酵母は真菌(カビ)の一種なのでアレルギー性疾患をお持ちの方は真菌に過敏な方が多いのでかえって症状を悪化させていまうこともあるようですので注意が必要です。また亜鉛を沢山とったら良いというものではなくて亜鉛をとりすぎることにより銅の吸収が妨げられてしまったり、気分が悪くなることもあります。適量を守って接種することが必要です。日本人の食事摂取基準(2020年版)では1日の接種の推奨量は18〜74歳の男性で11mg、75歳以上の男性で10mg、18歳以上の女性で8mgとなっています。
食事からの亜鉛摂取を考えたとき牡蛎やレバーなどの特別なメニューを考えないといけないと思いがちですが、実は日本人にとって最も馴染みのある食べ物に亜鉛が含まれているのです。それは、白米です。ご飯1杯(約150g)中に亜鉛が0.9mg含まれていて1日3食ご飯を食べるとそれだで2.7mgの亜鉛が取れるので男性の方だと約4分の1、女性方だと3分の1の亜鉛が取れるのです。
ところがパン食になるとどうでしょうか?食パン6枚切りの1枚(約60g)に含まれる亜鉛の量は約0.3mgです。実にご飯と比べると3分1程度の亜鉛しか摂取できないことになります。もちろんチーズなどを使うともう少し亜鉛の摂取量は増えますが、白米ほどの亜鉛は含まれていません。
ここで気になるのが戦後から日本におけるご飯の消費量は年々減ってきていますが、逆にパンの消費量は年々増加して2011年には世帯当たりの消費量がパンがご飯を上回っています。米の消費量減少とアトピーや潰瘍性大腸炎の患者さんの増加が逆相関している現状は無関係なのかどうか気になります。
日本人の主食である白米に亜鉛がしっかりと含まれている事が分かっていただけたと思いますが、ここで大切なのが玄米ではなくて白米でないといけないと言うことです。玄米の表面を覆っている糠にはフィチン酸が多く含まれていて、亜鉛と結合することによりフィチンとなり体内に取り込みにくくなってしまうのです。糠には食物繊維やビタミン等が多く含まれていますが、亜鉛摂取を考える上では逆効果になってしまうのです。
以上のように書いてきましたが私達の体にとって亜鉛がいかに大切な物か分かっていただけたかと思います。そして意外にも白米を食べることで亜鉛を自然と摂取できることに驚きました。是非この機会に白米を積極的に取ってみてはいかがでしょうか?
コメント